【書評】『天才たちの日課』クリエイティブと日常について

自分以外の人の生活を覗いてみたいと思うことはないでしょうか。それは、自分の生活がこのままではダメで何か参考にしたいと思っていたり、ダメじゃないけどもっとよくしたかったり、他には単に興味本位だったり。私も自分だけの”普通の”生活しか知らないから、他の人って毎日どうしてるんだろうって思うことがあります。

 

それが覗けるのが、この本。それも、天才たちのもの。それも旅行記などではなく、日課。どんな日常生活を送っていて、その中で仕事をどう位置付けているか、どう捉えているかまでを見ることができます。

 

メイソン・カリー著、金原瑞人/石田文子訳『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』フィルムアート社、2014年。

 

必ずしもクリエイティブでない日々

私は5年前くらいからか、日常生活こそが大事だと切に思うようになりました。旅行に行ったり、結婚式などのイベントがあったりと非日常のことがまぶしく感じられることが多々ありますが、ワクワクする非日常より、ワクワクはしない日常の方が、時間が長いことに気が付いたのです。当たり前のことではありますが、それに気付いてから、日常をいかに楽しめるかということに気持ちを当てています。

 

それと、焦点を当てるのが天才たち、というところに惹かれました。クリエイティブなものは、どういう日常から生み出されるのだろうか知りたい気持ち。それを満たすように、161人の161通りの生活が書かれています。副題は、「クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々」。

 

インスピレーションを待つ人、待たない人。書くことを習慣づけようとする人、義務ではなく遊びにしておく人。天才たちの生活ぶり、仕事への取り組み方から、彼らの人生に対する考え方が垣間見えます。

 

天才たちの生活

ベートーヴェンの日課がおもしろい!召使いたちが吹き出してしまうほどの独特の日課。吹き出したら中断されてしまう、という日課。想像するだけで、こちらまで吹き出してしまいます。

 

ゴッホは一日中仕事に没頭していたとのこと。やっぱり才能がありすぎてすごいですね。仕事をする、続ける才能。インスピレーションを行動(ピカソは絵)に移す、情熱という才能。本物の天才だと思います。

 

フランスの女性作家で詩人のジョルジュ・サンドは、チュコレートをかじり、タバコ(葉巻か手巻きタバコ)を必要としたけど、芸術家は薬物にたよるものだという考えには賛同していなかったとのこと。

想像力はそれだけでじゅうぶんに刺激的だし、じつをいうと、私にとってそれを高めるのに役に立つのは、牛乳かレモネードを少し飲むことだけだ。(本書p237)

 

しっかりと習慣を守ることが最後までやり遂げるコツだという、アメリカの小説家ジョン・アップダイクは、日曜には休み、休暇も少しはとる。作家のジャージ・コジンスキーは、午後に四時間眠ることで翌日の明け方まで精神的にも肉体的にも元気でいられるという。そして、明け方にまた眠る。

 

進化生物学者で作家のグールドは、はたから見ると”ワーカホリック(仕事中毒)”だけど、「仕事は仕事じゃない」という。

だが、基本的には、始終仕事をしている。テレビはみない。だが、これは仕事じゃない。仕事じゃなくて、生活だ。毎日やっていることで、やりたいことなんだ。(本書p347)

 

自分だけの日課を見つける

長い長い本文の、p351の最後の二文が心に響きました。この本を読んでわかったことは、やり方は人それぞれでいいということ。いろんな考え方があって、いろんな生活があって。日課で、参考にできることがあるかなと思って読んだんですが、自分のやり方でやればいいんだってわかったことが収穫でした。

 

本が厚くて情報量が多いので、内容の全部は覚えていません。書いてあるのは、延々とひたすら日課の繰り返しで(そういうテーマ)、ちょっと読み飽きてしまいそうになりますが、それでも興味深い。特に、自分の尊敬する人などのページは読み応え抜群です。名前を知らない人の日課も、独特でおもしろいものが多々ありました。

 

じっと座って読むのもいいですが、気の向いた時にパラパラとめくって読むのが楽しいと思います。と言ってもジワジワとおもしろくて、つい読むふけってしまうのですが。