〈レビュー・感想〉『ペイ・フォワード 可能の王国』ペイフォワードの精神とは

ネタバレあり。
内容を含みますので、ご注意ください。
物語のテーマについて書いています。

 

7年生(中学1年)になったばかりの少年が、はじめての社会科の授業で出た「世界を変えるために自分ができることは?」という課題に対して、「3人の人に善行を行い、それをつなげていく(ペイ・フォワード)」というアイデアを考えつき、実行していく物語。ペイ・フォワードは、受けた好意をその相手に返すのではなく、次の3人に贈るもの。

 

原題は『Pat It Forward』。2000年。キャサリン・ライアン・ハイド(1955-)の同名小説をミミ・レダー監督が映画化。ミミ・レダーが言うには、「究極のラブストーリー」。ミミ・レーダーは1952年生まれで、TVドラマ監督出身の女性映画監督。日本でもおなじみのTVドラマ『ER 緊急救命室』では、監督ならびに共同製作指揮者として2度のエミー賞を受賞している。他の映画監督作品は、ジョージ・クルーニーとニコール・キッドマン共演の『ピースメーカー』(1997年)、『ディープ・インパクト』(1998年)など。

 

メイキング映像では、グレース役のアンジー・ディキンソンが、アル中の老婆で路上生活者というこの役を引き受けるかどうか友人のグレゴリー・ペック(『ローマの休日』など)に相談したところ、ぜひやるべきだと言われたと明かしている。

 

問題を抱えた二人の変化

大雨の夜、強行な取材の途中で車が大破した記者に、犬を連れた一人の紳士がジャガーの鍵を渡す…つまり新車をプレゼントする、という不思議な場面から物語は始まります。

 

そして、舞台はラスベガスの一角。アーリーン(ヘレン・ハント)はストリップバーでウエイトレスとして働きながら、トレバー(ハーレイ・ジョエル・オスメント)を育てるシングル・マザーでアルコール依存症。問題を抱えながらも、なんとか生きていこうとしている女性です。

 

一方、社会科のシモネット先生(ケビン・スペイシー)は、全顔にやけどの跡があり、何か独特の雰囲気を持っています。生徒たちに熱く授業を繰り広げることと同じように日々のルーティーンを繰り返すことを無上の喜びとしていて、その外見ゆえか“複雑なもの”を抱えています。

 

トレバーの計らいで始まった二人の恋物語を軸に話が進んでいきます。母親が依存症ながらいろんな表情を持っていて、時折見せる笑顔がキュートで、「毎日が時間割」なシモネット先生が惚れるのも無理はありません。自分の殻に閉じこもっているシモネットですが、彼女の、息子を育てようとする必死な姿を見て、また自分の想いを素直な言葉で伝えようとする彼女に次第に心を開いていきます。

 

はじめは言葉の意味も通じ合わず、チグハグな印象の二人ですが、アーリーンは、トレバーや自分に対して正直になることで、依存症を克服しようとし、母親として、また一人の女性として少しずつ美しくなっていきます。

 

トレバーの純真な心

3人でプロレスを観ているシーンが最高です。とてもリラックスしていて。そこに、アーリーンに暴力を振るっていた、これもまたアル中のトレバーの父親(ジョン・ボン・ジョヴィ)が現れるのですが。

 

シモネット先生がはじめてトレバーの家に来た時、帰り際に食卓にキャンドルが灯っているというシーンが温かくて好きです。それは、トレバーが点けるのですが、トレバーの作戦は大成功。アーリーンも思わずシモネット先生に声をかけます。それと後半、アーリーンがシモネットに対して誤った行動をして落ち込んでいるとき、トレバーが「誰でも間違いはあるよ」と言うシーン。トレバー少年のその表情に、まるごと包み込まれるようです。

 

ラストは、私は嫌いではないですよ。トレバーは生きた証を残したのだから。死そのものが、死ではないという考えを持っているからかもしれませんが。テレビで流れるインタビュー映像では、11歳ながら、自分の周りの人々を見つめるトレバーの純真な心が見えて、胸が締めつけられるような思いがしました。辛い環境にありながら、周りの大人たちを手助けしよう、守ろうとトレバーが小さな胸に秘めていること、それを勇気を持って行動に移していることに感動しました。

 

愛のある眼差しと勇気が必要

トレバーのノートには大きなバツ印が3つ並びますが、彼の考えとその行動はロサンゼルス、サンフランシスコ、アリゾナへまで広まってムーブメントを起こします。

 

涙の流れる感動のストーリーでした。そして、観終わった後、自分はどうかな、と思える映画でした。周りの大切な人達に対して、トレバーのような瞳を持って見つめられているのかなと。

 

そして、fix a person、彼の言う、自転車とかではなくて、人間の修理…人を治すことに関われているのかなと。
「人は自分に何が必要なのかを必ずしもわかっているわけではないから。」

 

次の3人にペイ・フォワードのバトンを渡すには、よく人を見ること、その人を守るために見つめること。そして、難しいし、計画することはできないけど、チャンスが来たら勇気を持ってやってみることが必要だとトレバーに教わりました。

 

ペイ・フォワードには、愛のある眼差しと勇気が必要なのです。