〈レビュー・感想〉『さらば愛しきアウトロー』に閉じ込められた最後のレッドフォード

ネタバレあり。
内容を含みますので、ご注意ください。
物語のテーマについて書いています。

 

原題は『The Old Man&the Gun』。2018年、デヴィッド・ロウリー監督。ロバート・レッドフォード、最後の主演映画。16回の脱獄と銀行強盗を繰り返した、実在のアウトロー、フォレスト・タッカーの物語。

 

フォレスト・タッカー(ロバート・レッドフォード)は、74歳の銃を持った銀行強盗。銃は持つが撃ったことはなく、誰も傷つけない。ブルースーツに身を包み、微笑みを絶やさない彼を、人々は口々に「紳士的だった」と形容する。フォレストはテディ(ダニー・クローヴァー)とウオラー(トム・ウェイツ)と共に銀行強盗を繰り返す。いくつもの町で成功を収める中、老齢3人組の「黄昏ギャング」は、ジョン・ハント刑事(ケイシー・アフレック)に追われることになる。フォレストは、そんな追いかけっこも楽しみながら、ジュエル(シシー・スペイセク)との仲も深めていく。

 

私は、一日に、二度観てしまいました。「黄昏ギャング」なのだから、終始落ち着いた雰囲気。ひょうひょうと銀行強盗をするのがおもしろい。静かに進む、決して興奮しない映画なんだけど、2回観たらじわじわとおもしろ味が出てきて、結局興奮してしまいました。

 

お気に入りは、お札を撒き散らしながらの逃走シーン!最高でした!

 

幸せの基準

フォレストは、「子供のときの自分が、どう見ているか」を幸せの基準として生きています。

 

「昔の、子供の頃の自分が、今の自分を見て誇りに思うかどうか」
「そうありたいと思う」

 

スリリングで楽しめることに一生を費やしてきた主人公は、普通の感覚を持っている最後の恋人、ジュエルとも少し距離を保って過ごします。面会の時に、「これを君に」と差し出した数枚の紙切れ。また馬の絵かなと思ったら、これまでの脱走の経歴なのです。

 

17番目の最後は派手にいこうと意気込むフォレストですが、その、彼女へ向けた大きなプレゼントも、「普通の」彼女には簡単にかわされてしまいます。やはり、わかり合えないことを知ってしまうフォレストでしたが。

 

孤独なアウトローとジョン刑事

恋人に、「普通」に、感化されない孤独なアウトローはその後も銀行強盗を繰り返します。孤独でも、自分の好きなことをやり続けるフォレストが、とてもかっこよく思えます。

 

フォレストと、捕まえる側のジョン刑事と、どちらが正しいのかわからなくなってしまうのです。現代だっていつの時代だって、何が正しく、何が正義かわからない中、ただただ自己に忠実であることが主人公フォレストの答えで、それを生き様としているかっこよさに惹かれます。

 

ジョン刑事は、自分の幼い子供に、

「お前の好きなことを選べ」
「自分が大好きなことをするんだ」
「それが一番大事なことだ」

 

と伝えます。簡単なことに思えるけど、貫き通すのは難しい。

 

デヴィッド・ロウリー監督の世界観に閉じ込められたレッドフォード

1981年という時代設定がいいですね。古い時代をのぞけるのも映画の醍醐味です。壊れかけたテープレコーダーとか。舞台は81年だけど、映画の雰囲気は現代的。低く流れるジャズがお洒落で、全体がとても優しい映画です。


この中に、最後のレッドフォードを閉じ込める監督はさすがだなと思いました。それにレッドフォード最後の仕事が、誰も傷つけない銀行強盗かー。『明日に向って撃て!』のサンダンス・キッドや『スティング』のフッカー、『スパイ・ゲーム』のネイサン・ミュアーなどいろんな役柄が頭を巡ります。

 

フォレストに憧れを抱くジョン刑事の性

家族と幸せな時間を持ち、フォレストを追いかけながらも彼に憧れを抱くジョン刑事。ぶっきら棒な話し方など、なんだか新しい刑事のキャラクターも見所の一つです。

 

ダイナーで鉢合わせるシーンは、フォレストはまさに紳士的で、ジョン刑事も悪く言われた自分のことを、自分はよくやっている、と言うのが精一杯。フォレストと会ったときの表情は、憧れの人に実際に出会ったしまった子供のようです。

 

妻モーリーン(チカ・サンプター)に、「誰かの尻拭いはもう嫌だ」とこぼし、日々の業務に疲れ果てていたジョン刑事は、「黄昏ギャング」とフォレストを追うことで、生き生きとしてきます。追いかけっこを楽しむのは、刑事の性、またはジョンの持ち合わせたもの、どちらなのでしょうか。

 

フォレストなのかレッドフォードなのか

最後の恋人ジュエルを演じるシシー・スペイセクがまたすごく素敵ですね。ジュエルに、フォレストが発する含蓄のある言葉の数々。



自分が銀行強盗であることも「嘘か真実か大差ない」
「自分のスタイルに合わないことはやらない」
「楽に生きるなんてどうでもいい」
「楽しく生きたいんだ」

 

「昔の、子供の頃の自分が、今の自分を見て誇りに思うかどうか」自分の基準に対して、彼は、「日々近づいている」と自分を評価します。



自己に忠実である、といいますが、判断は自分、他人でなく自分。当たり前のことだけど、他人の言葉を気にしたり、周りと自分を比べたりするのは、私だけではないはず…。

 

そんなことには意味がないことを知っているフォレストは、銀行強盗をした窓口の女性からも「ハッピー」そうだったと言われます。「ハッピー」と繰り返すジョン刑事。無垢な瞳に無邪気な笑顔。74歳のフォレストは、いつでも「ハッピー」なのです。

 

最後のレッドフォード

レッドフォードが出ると画面に重みを感じます。見入ってしまう。映画を観ていると痛感するんです。贅沢な時間を過ごしていると実感できるんです。

 

画面が重い。レッドフォード、そして、映画には重量があると思うのです。最後のレッドフォードは、言葉が深くて、相変わらず立ち姿がかっこよくて。醸し出す雰囲気は渋くて、そして何より変わらない明るい笑顔が素敵でした!

 

先の映画スター、マリリン・モンローの言葉があります。
「男の人ってワインに似ているわ。寝かせれば寝かせるほどコクが出てくるの。」

 

自分がワクワクと楽しいことをすること

主人公フォレストは、病気なのか、はたまた正気なのか。フォレストにとっての銀行強盗、別の言い方をすれば、自分がワクワクと楽しいことをすることは、罪なのでしょうか。といっても逃走劇や脱獄をも楽しみとしている彼には、捕まることにも大して意味がないのかもしれませんが。

 

『さらば愛しきアウトロー』は、ロバート・レッドフォードの無垢な瞳に、自己に忠実であることを問われる映画でした。

 

好きなことをする。嫌いなことはしない。苦手なことはすべき場合もあるけど、苦痛ならばやらなくていい。

 

私が好きなことは、たくさんの物語をよむこと。子供の頃、絵本を読み聞かせしてくれた母に「もっと、もっと!」とせがんでいたように。さて、次はどんな映画を観て、どんな物語に浸りましょうか…。