※未視聴の方は読まないで観ることを強くおすすめします!
ネタバレあり。
内容を含みますので、ご注意ください。
物語のテーマについて書いています。
原題『The Sting』。1973年。監督、主演は『明日に向って撃て!』(1969年)と同じ、ジョージ・ロイ・ヒル監督、ポール・ニューマン&ロバート・レッドフォードの再共演。脚本はデイビッド・S・ウオード、音楽はマーヴィン・ハムリッシュで、主題歌は「ジ・エンターティナー」(スコット・ジョプリン)。
1936年のシカゴが舞台。イリノイで日銭暮らしをする若い詐欺師フッカー(ロバート・レッドフォード)は、相棒であり師匠のルーサー(ロバート・アール・ジョーンズ)を殺害されたことで復讐を誓い、つてを頼って天才詐欺師ゴンドーフ(ポール・ニューマン)のもとを訪れる。「殺しはできない」フッカーは、ゴンドーフと組んでロネガン(ロバート・ショウ)から大金をせしめることで報復しようと企む。ゴンドーフはルーサーの弔い合戦のため、詐欺師仲間を集めて、大掛かりな仕掛けを作る。
みなさんは、映画はあらすじを読んでから観られますか?私は、全く読まないで観ます。だから、手がかりはタイトルだけ。この映画も詐欺師、ということしかわかっていなかったので衝撃のラストまでまんまと騙され続けました。
衝撃のラスト?どんでん返し?
衝撃のラスト?
どんでん返し?
でも、この映画のラストは、めでたし、めでたしのはずなんです。
だって、ヘンリー・ゴンドーフ(ポール・ニューマン)率いる、最高の詐欺集団の物語なのだから。それなのに、途中で勝手に、自分勝手にシナリオを書き換えたのは誰なんでしょうか?それは観入っていた観客の私なのです。
監督のジョージは、相手の力を利用して技を繰り出す柔術使いなのではないでしょうか!ジョージは、観客に見せない部分がもちろんありますが、観客の力を巧みに利用するからです。
わかりやすく言えば、ラストの重要人物、ロネガンを店から連れ出す役目を担ったスナイダー警部補(チャールズ・ダーニング)は、フッカーへの大いなる怒りを利用され、その怒りをテコにまんまと騙されます。
そして、私達も挿絵を挟みながらわかりやすく種明かしをされてきたわけだから、当然詐欺師側に立っていると思い込むのです。そして、詐欺師側に立っていながら、途中でフッカー(ロバート・レッドフォード)に思い入れをしてしまうのです。
監督ジョージ・ロイ・ヒル
『明日に向って撃て!』のインタビュー映像で、ポール・ニューマンが監督のジョージを「絵が見えているんだ」「才能がある数少ない人」と表現して何度も褒めていましたが、私は『スティング』を観て、やっとわかりました。
はじまりから引き込まれてしまう映像に、途中のクラシカルな挿絵、緊迫した中に音楽がコミカルでホッとします。
レッドフォードに騙される!
そして、俳優陣の演技力。演技力が必要な仕事といえば、俳優、そして漫才師も挙げられます。それから、詐欺師もでしょう。そこで、レッドフォードの詐欺師を演じる演技力が素晴らしいわけです。
スナイダー警部補に殴られ、追いかけられ、色男のレッドフォードがへなちょこなんだけど、走りに走ってなんとか逃げ切る。そして、また別の場所で見つかる。彼のヘラヘラした態度が警部補をまたイラつかせるわけですが、フッカーを天敵とばかりに追いかけ続けます。
サリーノが撃たれるシーンは、昔たしかTVでこのシーンだけ見たことがあるのを思い出しました。フッカーには何が何だかわからない、観客にとってもまさかのシーンなんですが、誰がどこで狙っているかわからないと思い知らされるスリリングで重要な一場面です。
ラストは、サンダンス(=フッカー)がブッチ(=ゴンドーフ)を裏切るわけない!信じてる!と思うけど、あ、という間に撃ち合いになります。
そして映画が終わり、観客は頭の中で映画を巻き戻すことになるわけです。『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年)のジェシー(三浦春馬)よろしく、「どこでだ」「どこから」騙されたんだ、と。
映画は、いろんなシーンを頭の中で繰り返すのが楽しいですよね!この映画は129分ありますが、その最中もその後も楽しめる映画なのです。
思い返せば、はじめのルーサーと詐欺をするシーンから、フッカーことレッドフォードの演技に騙されていたんじゃないかと思うのです。親切で人の良さそうなフッカーに。
ラストでも、ゴンドーフが掛け金を一度断るのはリアリティを出すためのはずなのに、レッドフォードのびっくりする表情は失敗を示唆していて緊張します。そして、その後の「ホッ」と声が聞こえるような表情は成功を目の前にしてたまりません!それから、カモの二人が店を出れば、50万ドルはこちらの手の中なのです。
ポール・ニューマンの演じる、やり手の詐欺師ゴンドーフもめちゃくちゃカッコいい!はじめ登場したときは、多分、当事者のフッカーよりも呆れてしまいましたが。
『スティング』は、ハラハラ、ドキドキの傑作で、衝撃のラストまで延々と騙され続ける映画でした。